桃の木の住人

#2

絵・文・写真:雨宮尚子

2014.08.08

桃暦

トリのす見つけた!

5月
受粉が成功して、枝にちいさな桃の実がつきました。
今度はそれを少しずつ落としていく作業です。
「せっかくできたのにおとしちゃうの?」
「このままじゃ数が多すぎて、栄養も行きわたらないし、
こんなにくっついていたら、桃同士がぶつかって大きくなれないでしょ?
生長したときをイメージして、しっかり間隔をあけて、ゆったり大きく育つようにするんだよ」
シロネに教わりながら、さっそくチビネもお手伝い。
手間のかかるたいへんな作業ですが、
みんなでコツコツやっていくしかありません。
「あ、トリのすがある!」
「ときどきあるよ。それより実をよく見て。
かたちの悪いのは落としてね」
「あ、すごい、たまごうんでる!」
「チビネ、ちゃんと落としてる?」
「はーい」

若い桃には危険がいっぱい

よぶんな実を落として、数をきちんときめたら、残した桃にふくろをかけていきます。
「ふくろ?」
「そうだよ。この紙のふくろで桃の実を守るの」
若い実の表面はデリケート、葉がすれただけでもキズがつき、
雨にぬれると病気になります。その他にも、強い日差しや虫など、
桃にとっては危険がいっぱいなのです。
「ふくろのかけ忘れに気をつけて」
「はい」
「葉っぱのかげもよく見てね」
「あ、ヒナのなきごえがする!」
「そうだね。それから、ふくろがちゃんと枝にとまっているか確認すること」
「みてみて、おやどりがエサをはこんでる!」
「チビネ、ちゃんとふくろかけしてる?」
「はーい」

桃を赤くするには?

ふくろの中で桃はすくすくと大きくなっていきます。
地色の緑がぬけて、全体が白く先端がちょんとピンクに
染まったら、ふくろを取り除きます。
「つぎは桃を赤くする仕事だよ」
「どうやって、あかくするの?」
「光を反射するシートを木の下にしいて、下から桃の実を照らすんだ。
チビネ、むこうのシートの端を引っぱって」
「はい」
「こうやって、上の枝のようすを見ながら、しく場所をきめて・・・
きまったら、ピンを打ち込んでとめていく」
「はい」
「このへんでいいかな・・・」
「あ、ヒナがとんでる!」
「巣立ちだね。チビネ、シートをちゃんと引っぱっていて」
「バイバイ!またきてね〜!バイバーイ!」
「・・・・・・」

鳥はおいしい桃を知っている

実全体がきれいな桃色になったらシートをあげます。
いよいよ収穫です。桃の収穫は早朝、実がひんやりとつめたいうちにはじめます。
「はつもぎだね!」
「今年の桃はどうかな?あまいかな?」
3人はわくわくしながら畑にやってきました。
「たいへんだ、鳥がきてる!」
クロネがあわててかけ出しました。
「あ、ヒナちゃんがもどってきたんだ!おかえり〜」
「おかえりじゃないよ!早く追い払わなくっちゃ!」
鳥は熟度を見極める天才です。ちょうど今日収穫という桃の、
いちばん良いところを朝食にするので、
農家はたまったものではありません。
それにしても、どうやっておいしい桃を知るのでしょう。
いちど聞いてみたいものです。

 桃の木にはさまざまな鳥が巣を作ります。ていねいにしっかりと編まれた巣もあれば、小枝をのせただけのあばら家のようなものもあり、鳥の都合もいろいろなんだなと感じます。また、始終こちらを警戒し、キョロキョロばたばたする親鳥もいれば、作業中うっかり巣に手をつっこんでしまっても、かまわず抱卵をつづける豪胆な鳥もいます。いずれも天敵から巣を守るためには人間のそばが安全だと考えているようです。
 この時期の桃畑では、ひたすら黙々と同じ作業がつづきます。そんな中、日々変化する巣の様子は楽しみのひとつで、とくにひな鳥の成長にはこころがいやされます。巣立ちのころ、尾羽の短い若鳥がひょこひょこ地面を歩いているのを見ると、ネコやカラスにおそわれないかとひやひやし、さりげなく安全な方へ誘導したり・・・。
 そんな友好的な関係も収穫となると一転、こんどは桃をめぐって敵味方に別れます。人のいないすきをねらう鳥たちに、鳥の嫌がる音を出す機械を置き対抗、追ったり追われたりの日々です。あまりひどく荒らされると、やはり憎らしく思うこともあります。でも収穫が終わるころにはこころにも余裕がうまれ、「あとはもがずに鳥に残してあげようか」なんて言葉も。桃がなくなれば戦う必要もなく、自然に仲直りです。
 鳥は害虫となるムシなどを食べてくれる、かくれたパートナーでもあります。つかずはなれずで、これからも共に桃畑でがんばっていけたらいいなと思います。

絵本作家 雨宮 尚子

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