#13

文・写真:佐藤秀明

2013.05.08

平安時代から続く湯治

日本は温泉国である。どこを掘っても温泉が出るのだから湯脈の上に国土があるようなものだ。湧き出る温泉に浸ると疲れた体が蘇るという事を昔の人はどこかで知り、平安時代にはすでに温泉地に長期滞在して体を休める温泉の利用法があったというから日本人の温泉に浴す歴史は古い。江戸時代に入るとそれは「湯治」という言葉となって庶民の間にも広まり、温泉地の近くに住む人ばかりでなく、遠く離れた所に住む人も時間をかけて湯に入りに行くようになる。自由な旅行が御法度だったという江戸時代でも、“お伊勢参り”と“湯治の旅”は大目に見られていたようだ。面白いのは、サラリーマン化した武士が務めに疲れ果てて「虚労の症にも成らん」という状態に陥ると、湯治旅が勧められたという。

このように歴史のある湯治なのだが、湯治目的で温泉に出かけて行く人が今では大変少なくなってしまった。

湯治からTOJIへ

湯治が過去のものになりつつある現代、現代人の病にあわせた方法での湯治を提唱している人が宮城県の東鳴子温泉にいる。旅館大沼の五代目湯守、大沼伸治さんである。彼は、私たちがすっかり忘れてしまった湯治の良さを、“TOJI”と称し、現代人の感覚にあった方法で広めていこうとしているのだ。

鳴子温泉郷は837年に起きた鳥谷ヶ森山の噴火が起源とされ、1200年近い歴史があり、伊達藩の元では御殿湯も置かれた由緒ある湯治場なのだ。日本の温泉全ての泉質を合わせると11種類になるが、鳴子だけで9種類の温泉が湧き出ており、日本屈指の温泉地でもある。中でも大沼さんの地元である東鳴子温泉は、美肌効果の高い「重曹泉」を中心に多彩な泉質に恵まれ、昔から長期滞在療養に訪れる人が多かった。

これほど歴史のある温泉でも震災の影響は大きかった。鳴子温泉は内陸の山形寄りにあるために被害はほとんど受けなかったものの、風評被害による客の減少を食い止める事はできなかった。今、湯治にくるのは、被災で疲れが溜まった被災者の人たち。大沼さんはTOJIによって、そんな現代人のメンタルケアを行おうとしている。

それぞれのスタイルで楽しむTOJI

私たちは海を眺めたり、森を歩いたり、山に登ったりすることで心を解き放ち、新たな命をいただいたりすることができる。

大沼さんはそんな自然との付き合いをTOJIを通して体験してもらいたいと考えている。温泉に浸かる事で得られる解放感は、何か素晴らしいものを生む可能性を秘めているのだ。

だから大沼式TOJIではみんなで畑に大豆を育てたり、星や月を眺めたり、音楽を聞いたり、ヨガをやったり、自然や芸術を通して人と人がつながる「場」を作っている。

例えば旅館大沼では8つの内湯が用意されているが、リラックスしてもらうために、ひとりで湯を独占出来る内湯が6つもある。また、鳴子温泉郷の9種類のお湯を、五感全体で味わい、座禅を組んだり、森を歩いたり、シンプルな一汁三菜と玄米ご飯をいただく湯禅プランも大人気とのこと。

一度足を運んで、自分にあったTOJIをプロデュースしてもらうのもおもしろいのではないだろうか。

鳴子温泉郷東鳴子温泉 大沼旅館
宮城県大崎市鳴子温泉字赤湯34 TEL.0229-83-3052(代)
http://www.ohnuma.co.jp/

旅館大沼自慢の内湯は、昔から赤湯と呼ばれる「純重曹泉」と透明な「含食塩・芒硝重曹泉」の二本の源泉があり、それぞれPH7.0とPH8.0で中性とアルカリ性の肌にやさしい温泉だ。特に赤湯の方は重曹成分が83%と突出しており、全国有数の重曹泉にかぞえられ、自己の免疫力や自然治癒力が活性化されてさまざまな心身のトラブルに効果を発揮する。

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