第7回 料理家 吉本ナナ子「よりポジティブに伝える」

西表島の魔法使い
 吉本ナナ子さんと始めて出会ったのは、もうかれこれ七年程前。石垣島にある友人宅でのことでした。私が朝起きる頃には、ナナ子さんはすでに食材をどこかから沢山調達していて、キッチンでトントン・シャーシャー。「今日は潮が引いているから」と言っては出かけていき、午後はどこかから蔓をとってきて土瓶の把っ手作り。三時のおやつにはサーターアンダギー(沖縄風ドーナツ)を作ってくれて、それから畑に行ってお野菜の調達……。とにかく働き者で、私が一つのことを成し得えるか否かといううちに、三つも四つものことを同時にこなしていて、頭が下がる思いでした。
 身近に生えている野草のことや、海のこと、生活にまつわることはなんでも知っていて、「ナナ子さんは魔法使いのような人だなぁ」と言うのが私の第一印象でした。
 いつか、ゆっくりと、色々なことを習いながらお話を伺ってみたい。そう思いつづけて、あっという間の七年間。念願叶って、今回の取材に至りました。

野草力
 ナナ子さんは波照間島で生まれ育ちました。小さい頃、畑の行き帰りに、お母さんから食べられる野草を教わったそうです。お茶にしたり、おかずにしたり、調理法は様々。
「昔の人は畑に植っている野菜もいいけれど、野原に自然に生えるものが大好きだったんですよ。こういうモノは体にいいと言っていました。野草はえぐみが強いので、調理法にも工夫が要ります。薫製にした魚をほぐして和えたり、酢や味噌で味付けをしたり、組み合わせによってそのえぐみを楽しむのがいいですね」
 よくお料理に使うのはオオタニワタリや、長命草、よもぎや島胡椒などなど。頭やお腹が痛い時にはよもぎのおかゆ、長命草は毒消し効果もあるので生魚のツマとして用いたり、解毒作用・高血圧や糖尿病の予防にも良いとされるオオタニワタリはお浸しや炒め物などにして頂くと美味しいそうです。
 野草の話しをしている時のナナ子さんは、本当に嬉しそうでした。

「楽しむ」ということ
 沖縄の那覇に住んでいた頃、自分が子供の頃に食べていた野草を使って、お店で料理を展開してみたいと思ったそうです。最初はおつまみから、そして、どんどん料理の方にも展開していきました。  
「薬ならいいけど、体にいいからというだけで料理に使うのではダメだと思うんです。食べた時にホッと出来たり、美味しいと思えないと楽しくないでしょ? 苦いモノには苦い美味しさがあります。せっかくよい食材でも、美味しくないと次の世代へと繋がっていかないと思うんです。やはり、美味しく、楽しく、ということが大切なんじゃないでしょうか」
 ナナ子さんのお店の前のお庭には在来の野草の他に、イタリアンパセリやローズマリー、バジルなどの外来のハーブも植っています。これらを伝統の料理やお茶などに混ぜながら、日々美味しいゴハンの研究をし、楽しんでいるようでした。
 昔から伝えられる「いいもの」をポジティブに伝えていく。これこそがナナ子さんの才能なのだと思います。