第13回 式年遷宮「二十年毎のお引っ越し」 - 暦と共に受け継がれる技術

式年遷宮
 平成二十五年、伊勢神宮の神さまは二十年ぶりに新しいお宮へとお引っ越しをされました。建物だけでなく、神さまにささげる御装束神宝などもすべて新しく生まれ変わりました。何故二十年に一度なのか?人は六十歳で還暦を迎えます。つまり干支が一巡するということです。十ー二十代で見習いとして入り、三十ー四十代で中堅に、そして五十ー六十代で後見となる。宮大工などの職人の伝統が伝承されやすいということです。そして、もうひとつ現実的なこととしては、社殿の茅葺屋根や柱がもたないためとも言われています。弥生時代の建築様式がそのまま受け継がれているため、柱は礎石を使わずに直接地面に建てられているのです。
 古代では暦は太陰太陽暦が使われていました。十九年七閏を一章としていたため、 新しい章を迎えるという意味もあったようです。現在では人が集まりにくいなどの理由もあり、祭事を休日にもってくることも多くなっていますが、神宮では今でもきちんと暦を元に祭事が行なわれています。

常若の精神
「常に若々しく」それが常若の精神です。未来永劫そうあり続ける、ということはとても大変なことです。そうあり続けるためには、直線で時間を刻むのではなく、円を描かなくてはなりません。「死んでは生まれ」「生まれては死ぬ」その輪廻の思想こそが二十年に一度生まれ変わる、という形式を生み出したのかもしれません。
 木造よりも石造の建物の方が永遠性を帯びている、と思うかもしれません。けれども、ギリシャのパルテノン神殿ではかつての信仰は失われてしまいました。一方、二十年に一度建て替えをしている神宮には未だに祈りのエネルギ-が息づいているのです。
 「『リセット』というのはゼロに戻すことではなく、始まりの時の気持ちにもう一度立ち返ることなのです」というお話をお聞きしたことがあります。自分の中で「こうしよう!」と理想を掲げた時が一番エネルギ-に満ちています。その理想を実現させられるか否かはその心が継続していかれるか否かに懸かっているというわけです。

第六十二回
 式年遷宮は、飛鳥時代に二十年に一度と定められました。以来、約千三百年もの間続けられている儀式です。そして、今回六十二回目を迎えました。
 式年遷宮は八年の歳月を費やし、およそ三十三の諸行事が繰り広げられます。三大支柱は①新宮の造営、②御装束神宝の新調、③大御神の渡御、となります。
 平成十七年に行なわれた「山口祭」から始まりました。新宮を建てる御用材を伐り出す前に御杣山の山口に坐す神、木に宿る神に祈りを捧げる御祭りです。
 新しい御正殿の御敷地に「お白石」を敷き詰める「お白石持行事」は民族行事の一つです。神領民と呼ばれる伊勢市民が約一月に渡って心を尽くして奉献します。また全国の特別神領民も奉献することが出来ます。神宮を中心に地域の人々が一体化している様子は、町づくりの原点のように思いました。
 そして、十月、式年遷宮のメインイベントでもある遷宮祭が行なわれました。