「若狭・もんこ籠漁」

第3回ロケ 2009年4月

 若狭の天気は変わりやすく、晴れていたかと思うと一瞬にして日が翳り、雲が空一面を覆います。
 空が曇ると、海は鈍色(にびいろ)になり、西村さんのおしゃっていた冬の陰鬱さが想像されますが、ぼくらの取材した春の若狭は、いろんな形をした雲がとても美しかったです。

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取材は4月の中旬。
散った山桜の花びらが地面を覆っていました。
ⓒNobuhiko Yoshimura

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西日が沖合を照らしています。
ⓒNobuhiko Yoshimura

 狭い谷あいから生まれた雲は、山の中腹にたなびき、それはコウイカの脚のような形をしていたり、空の吐息のように見えたり、あっという間にモノクロームの墨絵の世界に入り、その幽玄なたたずまいに、心がしっとりと落ち着いていきます。
 西日が雲のあいだから射しはじめると、水平線近くが淡い黄金色に輝き、沖合はるかに西方浄土があるような気がしてきます。
 淡い光のなかに、深くやさしい気配が息づいているのが、若狭の魅力でしょうか。

 港のなかには海藻がたくさん生い茂っていました。
 ゆらゆら揺れているのは、佐渡で取材をしたホンダワラ。港にテトラポッドを置くまではもっと繁茂していたそうです。かつては、コウイカはこのホンダワラに卵を産みつけにやってきたそうです。

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港はこんな感じで海藻がたくさん生い茂っています。
ⓒNobuhiko Yoshimura

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若狭では「モンコ」と呼ばれているコウイカは、このゼブラのような模様が特徴。
ⓒNobuhiko Yoshimura

 コウイカのことをこちらではモンコと呼んでいます。でも、紋甲(もんごう)イカとは違います。紋甲イカは、20㎝ほどの胴体に眼のような紋様があります。写真でご覧になるとおわかりになるように、今回獲ったイカには紋様がありません。コウイカも紋甲イカも合わせて、若狭ではモンコと呼んでいるようです。

 ここで、話がややこしくなるのですが、昭和40年代に、日本の遠洋トロール漁船がアフリカ西岸でヨーロッパコウイカを大量に獲って、それが「モンゴウイカ」の名前で市場に流通しました。胴体の長さは30㎝を超える大型のコウイカです。現在、魚屋さんやスーパーで「モンゴウイカ」と呼ばれているのは、この輸入大型種の場合が多いようです。

吉村喜彦


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取材風景。西村さんの舟に3人が乗り込みました。
この背中はお馴染み、ムービーの是永さん。

ⓒNobuhiko Yoshimura